家長の死おすすめ度
★★★★★
ある一族の柱たる家長がいなくなることで、崩壊する家族。その崩壊と反対に成長するナチス。この相反するベクトルが理解できるとあとは枝葉末節です。
一度で理解できない方が多いと思います。それはナチスの形成過程(権力掌握過程)をご存知ないからでしょう。一度簡単に調べてからもう一度ご覧になるとわかりやすいと思います。
あと主役は、ヘルムート・バーガーではありません。ダーグ・ボガードとイングリッド・チューリンです。この二人がこの家族の最後のプライドを象徴しているのだと思います。そしてヘルムート・バーガーの最後のシーン、家族の崩壊の中でナチスに取り込まれてしまいました。ここは三島由紀夫氏の戯曲「わが友ヒットラー」の最後の台詞、すなわち右翼化しながらも「右も左も切り捨てる、中庸が一番」と言うような台詞に重なるようなまさにアイロニーなシーンでしょう。この映画に関しては他の方の投稿がほとんど的を得ているので、簡単に推薦の言葉をまとめてみました。家族の崩壊は食事のときのテーブルにすわる人数の減少で表現されます。一家を支えようとする意思のない人間たちの集団ではばらばらに散ってしまいます。逆にナチスは求心力を高めるためにいろいろなことを裏で行なっているのです。タイトルの「地獄に堕ちた」のはこの家族とナチス両方ですが「勇者」ということでこの家族が中心に描かれるのです。最後にナチスは共産主義打破が1つのテーマでした。その意味でこの家族と本来的に相反することはないのです。この大いなる矛盾を、淡々と豪華な映像でつむぎだしてくれる監督には賞賛の言葉しかございません。撮影シーンが特典映像で9分間ついてますよ。これは意外とラッキー。
THE DAMED MP40おすすめ度
★★★★★
1969年制作 イタリア=スイス 157分
一言でいいますと、ナチス台頭時代のドイツの貴族の一家の大河ドラマ
歴史的背景から言いますと、1933年ヒットラーがSS(親衛隊)によってSA(突撃隊)を粛正させた事件の映画化だから、シュマイザーMP40が登場するのは考証にあわない。ってこな事はどうでも良いのですが、主人公はフリードリッヒ(ダーク・ボガード)ではなく、どう考えてもマーティン(ヘルムート・バーガー)でしょう。
変態鬼畜野郎たちの晩餐会と言った感じで「羊たちの沈黙」や「ハンニバル」なんて片手でぶち抜く凄さ人間の業の深さを描いています。
まさに邦題の「地獄に堕ちた勇者ども」ぴったりですね。
1969年当時の古さを全く感じさせない映画ですね。
心臓の弱い人や、人並みの道徳心がある方にはお勧めできません。
時代錯誤の仕草
おすすめ度 ★★★☆☆
戦後25年。かつて反ファシズム・プロパガンダ映画を撮った作家も老境に差し掛かり昔日のおもいで時の社会を眺めていたのだろうか?戦争は終わった。「栄光の日々」は去った。経済成長は過去を夢想することを風景から奪ってしまった。時代錯誤への思わせぶりな仕草である。死への誘惑、美への憧憬、退廃への耽溺。絵に描いたような没落。これを崩壊の美学としたい願望のフィルムと名指すのは実に容易い。しかしいささか胡散臭くみえてしまう陰謀と倒錯そして殺戮と復讐のドラマではある。ナチズムを狂気としてひとまず括ってしまえば、この過去への眼差しの意味には口出しされまい。失われたときを求めて。そんな疑りもかすめる。いっぽうで激化する社会。急進化する左翼。この現実は戦後社会の変容の果てにとりあえず辿り着いた仮の世界、それも偽りの世界にすぎない、としておこう。そんな呟きも聞こえる。「地獄に堕ちた勇者ども」・・・過去の栄光。華麗なる舞台。オペラの輝き。そんな時代がかった大芝居も時代錯誤の大家として振舞うことで許容されたのだろう。そんな役回りへの周囲の期待に応えてみせたのか。それから早や30年以上。信じがたい時間の経過である。懐かしさなしにはこんなフィルムを今見ることは難しい。
概要
ナチスが台頭してきた1933年のドイツ、ルール地方の製鉄王エッセンベック男爵が、その誕生日に支配人のフリードリッヒ(ダーク・ボガート)によって射殺された。すべては男爵の従兄アッシェンバッハ(ヘルムート・グルーム)の差し金であり、その後も一族の者同士、血と愛欲にまみれた争いが続いていく……。
『ベニスに死す』と『ルードヴィヒ』に挟まる名匠ルキノ・ヴィスコンティ監督のドイツ三部作の1編。ワーグナーのオペラ『ニーベルンクの指環』をヒントに、ブルジョワの崩壊と第三帝国の到来を重ね合わせながら、デカダンス色に満ちた映像美学が荘厳に繰り広げられていく。ヴィスコンティ好みのキャスティングや、モーリス・ジャールによる狂気と耽美をあわせもつ音楽の素晴らしさも特筆的。百聞は一見にしかずで、一度は見ておくべき、狂える名作である。(的田也寸志)