無駄のない『平家物語』のエッセンス おすすめ度 ★★★★★
品格のある図説カラー版の本書、当然のことながらビジュアルで見やすく構成されている。5章12節の冒頭に10行前後の本文が紹介されている。いわゆる「さわり」の名文にしたいところだが、場面展開になる一節を選ぶことになったのではないかと思われる。例文をどこを選ぶか、必然性はなく、選び方には異論があるかもしれない。「那須与一」の場面で「扇も射よげになったりける」で終わっているが、むしろその後の「よっぴいて、ひゃうと放つ」の所の方がリアリティがあるのではないか、とも言えよう。
本文の後のあらすじと解説は場面展開に合わせ、簡潔に書き込まれていて適切である。各ページに必ず絵図・風景写真がふんだんに載せられていて、見応えがある。
コラムも参考になる。例えば、義経は「色白うせい小さきが、向歯殊に差出たる」と出歯で小男の風采あがらない武将として『平家物語』では登場するが、『義経記』では「眉目形類なくおはし、容顔世に越え」、楊貴妃にもたとえられるほどの美男子として描かれている。平成17年NHK大河ドラマ「義経」役の滝沢秀明はそのイメージに近いのではあるまいか。
本書の図版で主に用いられているのは、信州の大名真田家に代々伝わる絵入り写本『平家物語』30巻である。岡山の林原美術館蔵『平家物語絵巻』の存在が大きく、そのイメージが強い。しかし、人物への焦点化、女性向けのテキストとして中世から近世にかけて親しまれてきたものである(雅)
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