ストーリーは『大霊界』だが、映画というものがストーリーだけでできているのではない、という当然のことを教えてくれる作品だ。まず美術の美しさ。これまでにも、これ以降にも似た美術はない。とことんまで人工的なのに、奥行きや温かみがある。荘厳な音楽とも相まって、古典的な風格に満ちている。宗教観が雰囲気に留まっているのが肌に合わない人もいるかもしれないが、素直にほのぼのした映画を観たという気分になれる点では良いのではないか。繰り返しになるが、本当に美術は驚異的だ。美しい。
見たことのない世界観おすすめ度
★★★★★
死後の世界を描いた作品で夫婦愛と家族愛の強さを感じる話です。最愛の人たちを失う哀しみと一途に相手を想う純粋な愛の両方がうまく組み合わさっていると思います。ストーリーも良くできていますが、何よりも良いのが映像です。
誰も見たことがないあの世を映像化するという難題にも関わらず、絵画のような多彩な色と想像豊かな構成で見事に表現できています。同年作品の『アルマゲドン』を抑えてアカデミー賞最優秀視覚効果賞を受賞したのにも納得できると思います。
主演のロビン・ウィリアムスの作品としてはいつものようなエンターテイメント的な演技ではなく、大真面目な演技で良き父親、夫を演じていますが、そんな彼もとても素敵です。
永遠の愛と永遠に続かない生命の2つのつながりをぜひ見てください。
この映画は、心が"闇"に吸い寄せられるのを、抑止してくれる映画だと思う。
おすすめ度 ★★★★★
大変に個人的なことから申し上げることに、ご容赦を賜りたい。
私は、父親が45歳の時の子供で、一人っ子である。従って、私が小学校に入学した時、父は52歳になっていた。父親参観等で、児童の父親たちが一堂に会するときなどは、ほぼ、総ての場面で、父は最年長者だった。殆どの場合、クラス担任の教員もまた、父よりも年少だった。
私は、そんな父親を、ごく自然に、とても誇らしく感じた。「先生も知らない昔のことを知っている家のお父さんは、偉いんだなぁ……」と、素直に、そう思った。私にも、反抗期はあった。しかし、小学生のころに感じた、父に対する名状し難いノスタルジックな愛着は、一貫して、私の胸中から去ることが無い。
その一方で、私の中には、父が何歳まで元気でいてくれるのだろうかという、とても本質的な不安が、幼い頃から有った様に感じる。毎年お盆になると富山の菩提寺からご住職が来られ、ささやかな仏壇にお祀りしているご先祖様のお位牌に、お経を上げてくださっていた。
幼い私には、何故か、お位牌にお経を供えてくださるご住職の様子が、とても怖いものに感じられた。「お父さんも、何時かは、お仏壇の中に入っちゃうのかしら?」と、漠然とした不安を感じたことを、今でも覚えている。
前置きが長くなったことを、率直にお詫びする。
こんなバックグラウンドを持ったことが原因なのかどうかわからないが、私は学部時代、丹波哲郎氏の「大霊界」についての著作に触れ、大きな世界観の逆転を経験した。いわゆる彼岸と此岸との主客が、私の中で、逆転した。
人の霊魂が肉体から離れるとき、霊界からのガイドや、一足先に旅立った縁ある方たちが、団体で出迎えてくれることを知った時、私は、胸に熱いものがこみ上げてきて、涙が止まらなかった。
この映画の中に、不慮の交通事故で命を落とした父親と二人の子供たちとが、霊界で再会するシーンがある。このシーンをを見たとき、20年前に、丹波氏の著作に触れたときに感じたのと、全く同じメッセージを、私は受け取った。……涙腺が、またしても決壊してしまった……。
折りしも、それは父が脳梗塞の後の、リハビリに励んでいたころのこと。既に、事実上の父子家庭になっていた私にとって、この映画は、何時かはやってくるであろう父の彼岸への"帰還のとき"と、"帰還してなお断ち切られない魂の絆"とを、めくるめく映像美と俳優陣の誠実な演技とによって、私に「予告」してくれた、大切な一篇なのである。言わば、私の「心の映画」なのである。
父は脳梗塞を克服し、その後の5年間を、かなり元気に過ごした。6年目に、末期の癌であることがわかったが、本人にはことさら伝えず、献身的なヘルパーさんと私との二人三脚の在宅介護を経て、84年間の"現役を除隊"した……。
この映画は、うっかりすると、"闇"に吸い寄せられそうになる私の弱い心を正気にさせ、喝を入れてくれる、ありがたい作品となった。(了)
概要
医師のクリス(ロビン・ウィリアムス)は愛する子どもを亡くして悲嘆に暮れていたところ、自分も事故で命を亡くして天国へ。しかし、地上に遺してきた愛妻アニー(アナベル・シオラ)が悲しみのあまり自殺して地獄に墜ちてしまったことを知った彼は、妻を救出しに地獄へと向かう…。
まるで丹波哲郎が解く“大霊界”の世界をアメリカで映画化したかのようなファンタスティック・ラブストーリー。自殺した者は地獄行きというあたり、まさに丹波の教えそのものだ。油絵タッチを巧みに活かした天国のCG描写など技術的にも観るべきところは多いが、あくまでも夫婦愛に焦点を絞った展開が潔くもハートフルでよい。監督は『ビジル』『心の地図』などニュージーランド映画界の俊英ヴィンセント・ウォード。(的田也寸志)