神父のイメージと現実おすすめ度
★★★☆☆
ホゼ・マリア・エカ・デ・ケレス原作の同名小説が映画化されたもの。映画での舞台は2003年となっているが、原作は80年代に書かれたものというから驚きだ。アマゾンでは恋愛ものとして種分けされているが、むしろ、今も昔も変わらず存在する「聖職者にあってはならない行為」を描いた問題作といえるだろう。
「神に身を捧げると宣誓したではないか」
「するより他ないからしただけですよ」
「神父を辞めて結婚した人なんていくらでもいるわ」
「君は、僕に全てを捨てて薄給の教師になれというのかい?」
職業として「神父」になることを選んだ青年のあってはならない人間臭さがリアルである。教会が相手だからと神父の罪に口をつぐむことは現実にある。この作品のような内容では、神父自身に刑事責任を問うのは難しいかもしれないが、現実の世界では、刑事責任に問える場合でも信者がそれを表ざたにせず、本人は別の教区で神父として仕事を続けるなどということがよくあるのである。事実でないとはいいきれない内容であるがゆえに、アメリカ・メキシコの一部で上映禁止の運動がなされたともいえよう。
人でありながら神により近い存在となろうとする行動には限界がある。現代の宗教界がもつ問題を人前につきつけたという点で大いに見る価値のある作品だ。
こんな神父が赴任してきたら、誰だって…おすすめ度
★★★★☆
こちらは、ごひいきの俳優、ガエル・ガルシア・ベルナル の主演作品。てさー、ガエルくん、名前からして大物だもの、響が(笑)。この作品は、今公開中の話題作「バベル」(あの役所広司や菊地凛子、ブラッド・ピットが出てる)や「21グラム」の監督さん。いつもカトリックの「罪」が下地に織り込まれています。
この作品も、新しい教会に赴任したばかりの前途洋洋の神父ガエルくんが、現実の教会の闇の部分に憤りを感じながらも、だんだん順応していく前半。そして、交際していた女性の存在を保身のために隠し、教会の中で昇進していく後半。前半と後半の微妙な顔の違いに注目ですね。純粋な人間が、闇を背負って汚れて生きていくとこういう顔になるのか、よく分かります。
誰の心の中にもある善と悪
おすすめ度 ★★★★★
美しいメキシコの田舎の風景、人々の暮らしぶりが自然に映されています。現代のメキシコがよく分かる映画だと思う。メキシコの人々の人情の深さ、そして社会が抱える問題も。
アメリカ合衆国とは国境を接した隣の国なのに、どうしてこうも違うのか?とカルチャーショックを受けた。
いい役者は悪役を演じると素晴らしいと思う。この映画でのガエル・ガルシア・ベルナルもそう。
ガエルが演じる役柄は、彼の他の映画に比べて一見大人しい感じがするが、それは、この映画の登場人物全般にいえることで、リアルな人間像を演じているからではないかと思う。
「あるがままの人間」がいかに複雑で、エゴイスティックな狡さや感情に満ちているか、ガエルは、肩が懲りそうなくらい真面目に表現している。
主人公の二人だけでなく、登場する多々の役者さんたちが演じる「メキシコの人々」の濃い個性が素晴らしい。
ヒロインは中絶の事故で亡くなるのだが、メキシコの各州では原則として今も中絶は禁止なのだそう(2006年3月現在)。
このようなヤミ中絶の失敗による死亡は、実際、若い女性の死因のトップクラスとのこと。
レイプや母体の健康に影響がある場合は例外的に許可されるものの、ローマ・カトリック教信者が多いメキシコでは中絶反対の世論が強いそうだ。
そのためシングルマザーも多く、逆に、どんな子供も神様からの授かりものとして受け入れる思想があるので、未婚の母への風当たりは決して強いわけではないという。
黙認されている自国の問題をあらためて映像化して見せた…淡々と、美しく、感動的に…そういう意味で、メキシコにとってセンセーショナルな映画だったようだ。
ちなみに、映画はバス強盗から始まるのですが、解説モードでは「これは実際にあることだよね」とガエル談。今でも地域によってはバス強盗があるのだそう。
解説モードで印象に残ったコメントは「アロマ神父は悪い男だけど、これは物語だからね。物語は人を感動させる。現実はもっとひどい」の一言。
概要
司祭から期待されている新人神父のアマロは、ローマへ修行に出る前に見習いとして、メキシコの小さな町の教会に派遣される。強欲な神父たちの金の取引きを知りつつも、権力に逆らえないアマロ。そんな中、彼は16歳の少女と禁断の愛を交わしてしまう。
教会の不正や堕落と神父と少女の愛を描いた本作は、メキシコ、アメリカでは上映禁止を求める声が上がったという問題作。政界の汚職以上に聖なる場所である教会の汚職を描いた本作はショッキングだ。そして将来を嘱望された神父が、その誘惑に落ちていく姿は、神父といえど人間、その弱さは若さか人間性かと、考えさせられる。苦悩しつつ落ちていくアマロを演じたのは『アモーレス・ペロス』でスター俳優になったガエル・ガルシア・ベルナル。気高く美しいアマロが、教会の不正にかかわり、少女を傷つけて、表情が歪んでいく様は見事だ。(斎藤 香)