濃厚な坂東ワールドを堪能おすすめ度
★★★★☆
明治〜昭和の「土佐」の庶民たちを中心に,濃厚な土俗的世界を描いた短編集。坂東眞砂子は,やっぱりこういうオドロオドロしい世界が似合っている。
書名にもなっている『パライゾの寺』がよかった。禁制の切支丹として土佐に流されてきた豊市と,士族の未亡人ながら生活苦から遊女になった「さく」。豊一は,さくの中にマリア様を見て,さくを抱いてしまうのだが・・・。人が何に「聖」を見出すのかという一場面をきれいに切り出してみせてくれる作品だった。
東京の貧民窟で生まれ育ったフキ子を主人公にする『六部さま』も,たくましく生きる女と,根拠のない未来にしがみつきながら酒に溺れるしかない男とを対比するように描き,よかった。
坂東眞砂子のオドロオドロしい世界が好きな人にはお勧めの作品である。
村社会の怖さおすすめ度
★★★★☆
坂東眞砂子といえば、高知を舞台に日本の土俗的なおどろおどろしい世界を描く人というイメージがあります。
『パライゾの寺』は短編集で、一作読み進むごとに時代が新しくなる構成になっています。七話のなかでは「まんなおし」、「虫の声」、「六部さま」が気に入りました。「まんなおし」はある女の軽率な行為が神の怒りに触れたとして身の不幸を招いてしまうというものです。「虫の声」、「六部さま」は男の身勝手さがテーマといえます。身の不遇から酒に溺れてしまい、ますます困窮する、震災をいいことに妻子を置いて自分だけ逃れてしまうなど今も昔も男の身勝手さは変わりません。昔の男のほうがひどいくらいです。
似たような作風では岩井志麻子のほうが好みなのですが、この人も伊達に直木賞はもらってません。十分満足のいく内容でした。
歴史に名を残すことのない者たちの声
おすすめ度 ★★★★☆
作者が「附記」に記載しているように、「歴史に名を残すことのない者たち」の「声」を、明治維新前夜から太平洋戦争直後までを編年体で、七編の短編に纏めた作品集です。
伝承や地誌だけでなく、当時の新聞記事を基にしたものなど、取材元は様々ですが、そこには、土佐の山村、漁村の貧しい中にも逞しく生きている人びとの息吹があります。作者自身の表現を使えば、「力強く、逞しく、おかしく哀しく、多彩な響きに彩られ」ている人びとの「声」です。
七編の話の内容は様々で、作者独特の女性の性を扱ったものや、幽霊の話もあります。表題作の「パライゾの寺」のような武士の娘に生まれながら遊女になった女性の哀しい物語もあります。もっとも、この哀しい遊女に「パライゾ」の夢を見させる一夜で作者は追悼しています。
全体的に、ここに登場する女性たちは、逞しく生きています。作者が描く「女性の生」が、この本の中にもしっかりと読み取れる短編集です。