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恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇 (岩波文庫)

菊池 寛
おすすめ度:★★★★★
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強烈な話ばかり
おすすめ度 ★★★★★

これはすこぶるおもしろいよ。
10の短編からなり、強烈な話ばかり。
特に印象的だったのは、表題の2つと「蘭学事始」、「俊寛」。
「恩讐の彼方に」は、人を殺した男がただその罪を償うために二十年以上かけてトンネルを掘るという偉業を達成する話。
「忠直卿行状記」は、徳川家康の孫、忠直が主人公。自分のために家臣が次々と切腹していく。他人に理解されない苦しみを描いたある意味恐い話。
菊池寛は「真珠夫人」だけじゃないよ。歴史物が好きな人は楽しめると思う。



ザ・重厚
おすすめ度 ★★★★★

かつて松本清張は、現代における菊池寛の評価が不当なまでに低いことに憤りを覚える−と、語ったことがありました。 “芸術よりも生活が大事”と言った菊池に、生活人としての辛酸をなめてから作家になった松本は共感するところが多かったのでしょう。 松本もまたその長い作家生活の中で、スーパー名探偵やレトリック重視の推理作品を書こうとはしませんでした。

この作品集に収められている数々の物語は、いわゆるおしゃれで華麗な−といった形容とは無縁のものばかりです。 非凡ではあってもけっして天才などとはいえない普通の人間たちが、人生でぶつかる運命的な出来事−そのとき彼らはどういう決断を下し、その結果どうなったか、というストイックな内容のものが多いです。 全体的に見ると、あくまでも誠実に生きようとした主人公たちは人生の喜びを見つけることに成功しますが(“恩讐の彼方に” “俊寛”など)不道徳で安易な道を採った者や自暴自棄に陥った者達は不本意な結果を迎えます(“忠直卿行上記” “藤十郎の恋” “入れ札”など)。 また、二人の己の信念に忠実な男たちが直面せざるを得ない苦い結末“蘭学事始”という佳作も見落とせません。 これは確か昔、中学校の国語の教科書にも載っていたと思います。

決して“珠玉の名品集”などという呼び方は似合いませんが、ゴツゴツと武骨でありながらも不思議なやさしさを感じさせる優れた短編集です。 短くても密度の濃い小説を探している方には最適です。



短編にこめた様々な人生観の参考になる。
おすすめ度 ★★★★★

「忠直卿行状記」が読みたくて再び購入のうえ再読した。かつては指導者の孤独感に共鳴したものだが、いま読み返すとまた違った読後感をもつにいたる。すなわちそれは日本人の古くからあったんであろう病理的欠陥を見た次第である。これは読み手によってさまざまであろうから断言はできないが、明らかにいえることは、こうした古典的名著には何度読んでもそのときどきに感じ方を味わえるということであろうか。行き詰まっては読んでみて、あらたな発想をもうけるという繰り返しによって、すこしは人も成長するのであろうか。なにしろ読まないことには始まらない。新たな視点などだれも教えてはくれないのである。なにが新しいのかは自分しか知らないのだから。
記20070915



短編だが起伏に富み表情豊かな作品たち
おすすめ度 ★★★★☆

古典といっても過言ではない作品たちだが、同時代の他の作家と比べると読みやすい文体だと感じた。
表題にある「恩讐の彼方」には、耶馬渓の羅漢寺界隈に仕事で行った際にその舞台である旨を聞いたが本作品を読むには至らなかった。短いが、起伏に富んだ表情豊かな話であり、非常に引き込まれた。

私がこの中で一番に挙げたい作品は、平清盛によって島流しにされた「俊覚」。これが非常に印象に残った。次点としては表題にもある「忠直卿行状記」。時に支配者の孤独が鋭く切り出されている。

他の作品では、上方歌舞伎の芸の悩みから新しい作風と色恋について描かれた「藤十郎の恋」。杉田玄白が主人公の「蘭学事始」。国定忠治とその舎弟たちの「札入れ」。

どの作品も短いが、深みのある話であり、作者の力量に感嘆するばかりである。



嫉妬に狂って・・。
おすすめ度 ★★★★★

 子供みたいにぼろぼろ泣くことができた本として、私の記憶には残っています。
 しかし、今読み返してみると・・。
 毎日の生活に、社会に揉まれ、八方塞がりで・・・
 どこにいっていいいか分からなくて、とうとう醜い嫉妬に狂っている私って・・。
 まさに今の私の状態と『恩讐の彼方には』は同じ状況だ。
 高校生の頃は、ぼろぼろ泣いた当時、まさかこの作品と同じような状況に置かれるとは・・・。
 やはり名作とは、普遍的な共感を得るからこそ名作なのですね。
 「まだ間に合う」という想い(願い)を込めて、『恩讐の彼方に』を再読しました。
 そういう意味で、どんな、自己啓発本より、私に渇を入れてくれた本です。


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